会長あいさつ
東北大学 多元物質科学研究所
虻川 匡司
本懇談会の悲願でもありましたVUV-SX領域の高輝度光源の建設が、2023年のファーストライト、2024年度の利用開始を目指して、急ピッチで進められております。本年5月には、上棟式も行われ、年内には加速器リング、実験ホールを収める建物の全容が姿を現す予定です。ビームライン建設に向けても、それぞれのビームラインに必要な機能・性能を実現するための技術やコストなどの具体的な検討が進められている段階と伺っております。本会の会員の皆様には、開始時に利用できるビームラインのラインアップや、個々のビームラインで提供される様々な測定手法、装置、測定環境がもっとも気になるところと思われます。初期10本のラインアップに関しては、官民地域パートナーシップのパートナー代表機関である光科学イノベーションセンター(PhoSIC)が諮問したビームライン構想委員会によって2018年8月にまとめられた10本の初期ビームライン案に始まり、その後、国の主体である国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)とPhoSICが共同で設置した「次世代放射光施設ビームライン検討委員会」によって、2019年6月に国側3本、パートナー側7本の「第1期ビームラインアップ」として報告されております。
その報告から既に2年経過しようとしていますが、その後のビームラインの検討状況については、まとめて公開される機会は設けられておらず、会員の皆様は情報不足にフラストレーションを感じておられるのでは無いかと思います。本ニュースレターでは、QST次世代放射光施設整備開発センターの高橋正光さんらに国側3本の共用ビームラインの検討・整備の現状を報告いただきました。パートナー側の7本に関しましては、今回記事を用意できませんでしたので、少し補足いたします。パートナー側7本も、ユーザータイムの半分程度は共用使用される予定であり、現在、東京大学放射光アウトステーションで共同利用に付されているエンドステーションの殆どは、パートナー側のビームラインに移設される予定と伺っております。パートナー側の7本に関しては、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)が技術的な部分をサポートして検討・整備が進められています。物性研の原田慈久教授、松田巌教授も、SRISの客員教授として整備に関わっております。また、ビームラインに関連することでは、2021年2月にSRISによって「次世代放射光施設コアリションビームライン実施計画に関する国際審査」が行われました。その報告書(英語)がSRISのHPで公開されております。そこには、2月時点での7本のビームラインの最新の検討結果が記載されており、それに基づいて国内外の専門家が技術的な面に関してレビューを行っています。興味のある方は是非ご覧下さい。
話は変わりますが、コロナ禍の状況では、出張を伴う放射光利用実験は制限が多くリモート計測の導入が急務となっています。イタリアCNR-IOMの藤井純さんに、Elettraでのリモート計測の状況をレポートいただきました。リモート計測の方法だけではなく、問題点などについても具体的に述べられており大変参考になるものと思われます。
最後になりますが、次世代放射光施設の開設に伴いアウトステーションの移設が予定されていることから、今後の本懇談会のあり方・役割の議論が高まっております。1月の総会では、次世代放射光施設での利用形態等への質問がございました。3月4日に行われたISSPワークショップの総合討論では、懇談会の役割として、VSXサイエンスの牽引、若手の育成、企業との交流などが議論されました。次世代放射光施設の初期10本のビームラインのうち軟X線ビームラインは6本ですが、本懇談会にたいして従来の枠にとらわれない幅広い活動へ取り組むべきとのご意見もありました。今後、みなさまと議論を重ねて、本懇談会がみなさまと共に発展して行ける道を探りたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。