Topics of 2026 

01 「国際会議VUVX 2026に参加して」

量子科学技術研究開発機構
NanoTerasuセンター

西野 史

投稿日:2026年9月18日
公開日:2026年10月1日

 2026年6月21日(日)から6月26日(金)にかけて、スウェーデン・ウプサラにおいて「The 42nd International Conference on Vacuum Ultraviolet and X-ray Physics (VUVX 2026)」が開催されました。VUVXは、真空紫外(VUV)からX線領域の光を利用する物理学と関連技術を幅広く対象とする国際会議です。今回は、原子・分子物理、固体物理、物質科学、光電子分光、X線吸収・発光分光、共鳴非弾性X線散乱(RIXS)、X線自由電子レーザー(XFEL)、高次高調波発生(HHG)、放射光光源および計測技術など、多岐にわたる研究発表が行われました。会場はウプサラ大学のオングストローム研究所(Ångström Laboratory)で、6月21日夕方のウェルカム・レセプションに続き、22日から26日まで科学プログラムが実施されました。23日と24日にはポスターセッションが、25日にはウプサラ城(Uppsala Castle、図1)でカンファレンス・ディナーが開催されました。本会議には約200名の参加があり、8件の基調講演、52件の招待講演、63件の一般口頭発表および44件の一般ポスター発表の計167演題の発表がありました。
 本会議の注目講演の一つは、ルンド大学のAnne L’Huillier教授による「The world of atoms at the attosecond time scale」でした。L’Huillier教授は、Pierre Agostini氏、Ferenc Krausz氏とともに「物質中の電子ダイナミクスを研究するためのアト秒光パルスを生成する実験手法」により、2023年ノーベル物理学賞を共同受賞しました。残念ながら私はこの講演を聴講できませんでしたが、聴講した参加者からは非常に好評だったとお聞きしています。
 私は、NanoTerasu BL06Uで整備を進めているマイクロARPES装置について、「Present status and future perspectives of the micro-ARPES system at NanoTerasu BL06U」と題したポスター発表を行いました。 NanoTerasuは2024年に運用を開始した3 GeV高輝度放射光施設です。BL06Uでは高輝度軟X線を用いたARPES測定環境を整備しており、マイクロARPESステーションは2025年3月から共用を開始しています。本発表では、マイクロARPES装置の現状と、これまでに得られた測定結果、今後の装置高度化計画について紹介しました。来場者からは、主にビームラインの集光性能や集光光学系について質問をいただきました。さらに、私が中心となって整備を進めている試料準備チャンバーについても、いくつか質問をいただきました。本チャンバーはその場製膜を主目的として設計・整備しましたが、バルク試料のみを扱う研究者からも、加熱処理や低速電子線回折(LEED)によって表面状態を確認したいとの要望がありました。想定以上の需要があることが分かり、今後の整備への意欲が一層高まりました。また、利用者が必要とする具体的な試料処理条件についても、情報を得ることができました。現在立ち上げを進めている、超低速電子線回折(VLEED)型スピン検出器を用いたスピン分解ARPES装置についても、さまざまな意見を伺いました。VLEED型検出器による高効率な軟X線スピン分解ARPESの実現が重要であると強い期待を込めて熱く語る研究者がいる一方、光電子をVLEED散乱に適した低エネルギーまで減速・輸送する際の透過率低下も考慮し、装置全体としての実効効率をMott型検出器と比較して評価する必要があるとの慎重な意見もありました。このようにさまざまな研究者から装置に対する考え方やニーズを直接聞くことができ、非常に有意義な機会となりました。私自身、スピン分解光電子分光については学ぶべき点が多いため、今後さらに理解を深め、本装置の特長を最大限に引き出せるよう、整備・高度化を進めていきたいと考えています。
 今回のVUVXでは光源・ビームライン・エンドステーションなどの装置に関する発表も多く、海外の放射光施設における装置開発の動向を学ぶ貴重な機会となりました。特に、測定装置そのものの性能だけでなく、装置性能をどのような標準試料や測定手順によって評価するかという点について、今後のBL06Uの整備に役立つ知見を得ることができました。
 また、会議の合間や食事の時間には、ウプサラ市内を散策しました。カイ・シーグバーンゆかりの建物を訪れ、ウプサラの街並みを眺める時間は、よいリフレッシュになりました(図2)。
 会議終了後には、スウェーデン南部のルンドにある放射光施設MAX IV Laboratoryを見学する機会をいただきました(図3)。MAX IVは、3 GeVと1.5 GeVの2基の蓄積リングを備えています。特に3 GeVリングは、マルチベンドアクロマット(MBA)格子を採用した世界初の第4世代蓄積リング光源として、2016年に運用を開始しました。最近、放射光ビームラインでは最高性能を達成するだけでなく、その性能を継続的に確認し、ユーザーが安定して利用できる状態を維持することが重要かつとても大変なことだということをビームラインの運用に携わって2年目を迎え、ようやく学び始めてきました。そのため見学では特に、装置管理や標準試料を用いた性能確認測定、ユーザー利用を支える装置整備上の工夫に注目しました。MAX IVで実践されている装置の点検方法や標準的なテスト測定について説明を受けたことは、BL06Uにおける今後の装置整備や運用方法を考える上で大いに参考になりました。
 今回のVUVX 2026への参加を通して、私自身の研究に直接関係するARPESや放射光ビームラインの装置開発について、世界各地の施設で進められている最新の取り組みに触れることができました。今回得られた知見を、今後のNanoTerasu BL06UにおけるマイクロARPES装置・スピン分解ARPES装置の整備と、ユーザー利用環境の高度化に活かしていきたいと考えています。

 

図1 午後11時頃のウプサラ城前。夏至の時期だったため、夜になっても薄明るい空が続く光景に感動しました。

図2 シェア電動キックボードのRyde(スウェーデン版LUUP?)が広く利用されており、サッカーW杯のパブリックビューイング会場前には、驚くほど多くの車両が並んでいました。

図3 MAX IVの実験ホール内に展示されていた、装置部品を組み合わせたような人形型のオブジェ。とても可愛らしい姿が印象的でした。NanoTerasuにも、こういう目の保養になるような展示があればよいなと思いました。